VTuber大リストラ時代 〜膨大なコストと難しい収益化〜
2016年11月にVTuberの草分け的存在としてキズナアイがデビューしてから約3年半。一時期は、数千人・数万人と呼ばれるVTuberが存在していると言われ、VTuber事業を行うベンチャー企業や、新規事業が続々と生まれて行きました。
YouTuberたちの時代が終わるとも言われていた勢いから一変、現在はVTuberの大リストラ時代に突入しています。今回は、主なVTuber事業の統廃合の内容や、VTuber事業が息詰まってしまった原因を考察します。
VTuberのマネタイズとコストの基礎知識
まずは、そもそもVTuberはどのように収益をあげて、一方でどのようなコストが掛かるのか主なものを簡単にご紹介します。
収益
・YouTubeのアドセンス (Googleの時価によって変動し安定しないリスク有)
・タイアップコンテンツ (単価は高いが作り込むと手離れが悪く大量に受注しづらい)
・2次ライセンス商品 (そもそもキャラに人気が出てからでないと難しい)
・イベント出演料 (バーチャル故に出演できるイベントに技術的制限がある)
コスト
・イラスト料 (絵師によって値段はマチマチ)
・3DCGの制作 (クオリティーによってピンきり、数千万円かかる場合も)
・モーションキャプチャーの設備 (数千万円かかる場合も)
・声優の出演料 (声優のランクによる)
・モーションキャプチャー俳優の出演料
・企画・演出・台本などのスタッフ費用
・動画撮影・編集などのスタッフ費用
・プロモーションコスト及び営業活動費 (天井知らず)
収益はリスクが高く、コストも高いモデル
そもそも広告モデルが中心になるため、今回の新型コロナなどあると市場の影響を受けやすいことや、Googleの一存で大きく単価も影響を受けることがあります。
また有名アニメのように2次ライセンスやイベントとのコラボまでにたどり着くためには、相当な投資が必要になります。そして、その際は逆に有名アニメなどが競合になるため、比較対象が相当増えます。
またコストも低クオリティーで始めればスマホと自作イラストで出来ますが、企業タイアップや商品化を狙うには少なくとも数千万円単位の初期投資やプロモーションコストが必要になります。
VTuber事業の主な統廃合の推移
2018年に盟主キズナアイの分裂、2020年4月に独立へ
VTuber業界を築き上げ、そして牽引し続けた存在であるキズナアイ。しかし、2019年5月から8月に大きな異変が起き始めました。いわゆる”分裂騒動”です。
春日望さんが声を担当する「1号」の他に、声の異なる3人のキズナアイが生まれ、1号の動画投稿頻度が減ったことで既存ファンの離脱や不信が相次ぎました。
その後、分裂騒動は収束しましたが、2020年4月にキズナアイの運営会社であったActiv8から新会社「Kizuna AI」としてスピンアウトすることが発表されました。
2019年12月、ミライアカリのフリー宣言、富士葵の移籍
また2019年末にはキズナアイの背中を追いかけるトップ戦線クラスのVTuberのフリー化や移籍も相次ぎました。
富士葵を運営していたユナイテッドの子会社Smarpriseが、運営会社ごとゲームエイトに買収をされました。結果として富士葵の運営親会社も変わる形となりました。
またその直後にバーチャルYouTuber事務所「ENTUM」の活動終了が発表され、「ミライアカリ」や「猫宮ひなた」などの既に知名度のあるVTuberはフリーとして独立することになりました。
既に2019年末からVTuber市場の地盤は大きく揺れていたことがわかります。
2020年にはCandee、サイバーエージェントがVTuberから撤退
2019年末の独立・移籍騒動の直後である年明け2020年1月には、CandeeがVTuber事業から一部撤退を発表。
また6月にはサイバーエージェントグループのCyberZの100%子会社でVTuber事業支援等を行っていたCyberVの解散が発表されました。
いよいよ2020年に入ると動画・広告の大手企業の撤退が相次いだ形になりました。
「upd8」が2020年12月31日をもって事業を終了
新型コロナの影響が一進一退を繰り広げる11月初旬にVTuber界を牽引してきたともいえる「upd8」プロジェクトの事業終了が発表されました。
盟主であるキズナアイも所属していた同プロジェクトですが、上述の通り2020年4月にキズナアイの脱退、8月にYuNiが脱退するなど人気タレントの離脱が相次ぎました。
そしていよいよ2020年内を持って事業終了となりました。VTuberの1つの時代が終わりを迎えたと言えるでしょう。
VTuber事業の衰退の原因
1.収益の不安定と大きなコスト
最初のマネタイズ部分でも書いた通り、広告という不安定なモデルの上に、売れたあとしか実現できない2次ライセンスなどの収益基盤は極めて不安定です。
一方で、スタジオや3DCGモデルや声優・スタッフなどの必要不可欠なコストは非常に大きく、クオリティーを保つためには削りづらいものが多いです。
つまり、どうしても「収益<コスト」になりやすいビジネスモデルであったと考えられます。
2.競合はYouTuberではなくアニメキャラクターや芸能人
最初はYouTuberのディスラプターとして、ゲーム実況市場などから大きな収益を上げていたVTuberたち。
しかし、2次ライセンスやイベントタイアップを考えた時の競合はYouTuberではなく、アニメキャラクターでした。
企業が商品とコラボする場合に、VTuberよりもお茶の間に馴染みのあるTVアニメキャラクターを選びやすいのは事実だったと思います。広告ターゲットを考えると「鬼滅の刃」や「エヴァンゲリオン」と同じところで戦う必要があったためです。
またゲーム実況やYoutubeでのタイアップも、2018年頃から続々と有名人がYoutubeを始めたことで、YouTuberの競合レベルが上がってきたことも誤算であったかもしれません。
3.不祥事が起こりづらいというメリットの瓦解
アニメキャラクターやVTuberのような仮想キャラクターは、広告代理店等がクライアントに売り込む場合の1つの殺し文句として、「有名人のようにスキャンダルのような不祥事のリスクが非常に少ない」ということを謳うケースがあります。
特に昨今人気芸能人が不倫騒動などでCMの差し替えや商品のイメージダウンにもなるため、企業は敏感になっており、不倫や覚醒剤をしないバーチャルキャラクターを起用する大きなメリットでした。
しかし、2018年に盟主であるキズナアイが”分裂騒動”という、有名人では起こさない新しい不祥事が起きてしまいました。不祥事というよりは内紛に近いのかもしれませんが、どちらにしてもファンの信頼を落とすという意味では、不祥事と近いことがおこり、VTuberを売り込んでも、「不祥事のリスクがありますよね?」という状況になりました。
今後のVTuberは?
VTubeのブームは去ったと言える状況であることは間違いありません。
しかし、VTuberが全滅することはなく、しっかりと収益化をして事業として生き残るVTuberは存在していくと思います。一方で、トップ以外のVTuberはビジネスとして今後も統廃合が続くと思います。その後、さらに技術革新が進みコストの低下や、5G時代のオンラインイベントの参加アバターになるなど、新たな収益モデルが生まれた後に、第二次ブームが訪れるかもしれません。